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包丁妻、夫の不倫相手に1000万円の慰謝料を請求するも認めらず!

この裁判のあらすじ

原告妻Aと夫Bは1967年5月に結婚。1968年に長女、1971年に長男が生まれる。

夫Bは1980年に親族の経営する婦人服製造会社に転職。転職後に残業が増えた事により、原告妻Aは不満を漏らすようになる。夫Bは原告妻Aの不満を真摯に受け止め独立開業をする計画を立てたが原告妻Aがこれに反対したため、X社に転職し取締役に就任。夫Bは1983年から自宅不動産を担保に提供するなどX社の資金繰りに深く貢献。1984年にはX社の代表取締役に就任。しかし、原告妻Aは夫Bが個人債務を背負うリスクを理由に代表取締役への就任に強く反発。土地建物の登記済証を隠すなど抵抗をする。その後、夫Bが登記済証を探し出し抵当権を設定したことを知った原告妻Aは財産分与の要求や、包丁をちらつかせるなど怒りを露わにする。

悪化を続ける夫婦関係に疲れ果てた夫Bは1986年に別居目的で家庭裁判所に調停を申し立てる。しかし離婚の意思がなかった原告妻Aは調停を欠席。夫Bは止むを得ず調停を取り下げる。その後も、原告妻AはX社関係の女性に電話をして夫Bとの関係を問いただすなどの実力行使に出る。夫婦関係は悪化の一途をたどる。

1987年2月、夫Bは大腸ガンのため入院。病床で原告妻Aと別居する意思を固めた夫Bは、入院中にX社名義でXマンションを購入する。同年3月、夫Bはガンの手術をおえて退院。退院後まもなくスナックに飲みにいった夫Bは、スナックのアルバイト店員Cと知り合う。

1987年5月、夫Bは購入したXマンションへと移り住む。こうして原告妻Aとの別居生活がはじまる。夫Bが別居したという事実を知ったアルバイト店員Cは、夫Bとの距離を縮め夏には肉体関係を持つ仲へと発展する。同年10月、Xマンションにて同棲がはじまる。

1989年2月、アルバイト店員Cは夫Bとの子を出産。夫Bは子を認知。

一連の流れを知った原告妻Aはアルバイト店員Cに対して1000万円の慰謝料を請求する民事裁判を起こす。

  • 原告の言い分

    私の夫と同棲して子供まで産むなんて言語道断!アルバイト店員Cには慰謝料1000万円を請求するわ!!

  • 被告の言い分

    彼から「もう妻とは別れる」と聞いていたし、実際に別居しているという事実を目の当たりにしていたから問題ないでしょ!

裁判所の判断と判決

B夫とアルバイト女性Cが肉体関係を持った当時既にB夫とA妻との結婚生活は〝事実上の破綻状態〟だったためアルバイト女性Cは結婚生活を侵害していない。よって慰謝料の請求は認められない。裁判にかかった費用は自己負担でお願いします。

以下、判例全文

【事件番号】 最高裁判所第3小法廷判決/平成5年(オ)第281号

【判決日付】 平成8年3月26日

【判示事項】 婚姻関係が既に破綻している夫婦の一方と肉体関係を持った第三者の他方配偶者に対する不法行為責任の有無

【判決要旨】 甲の配偶者乙と第三者丙が肉体関係を持った場合において、甲と乙との婚姻関係がその当時既に破綻していたときは、特段の事情のない限り、丙は、甲に対して不法行為責任を負わない。

【参照条文】 民法709

       主   文

 本件上告を棄却する。

 上告費用は上告人の負担とする。

       理   由

 上告代理人森健市の上告理由について

 一 原審の確定した事実関係は次のとおりであり、この事実認定は原判決挙示の証拠関係に照らして首肯することができる。

 1 上告人とaとは昭和四二年五月一日に婚姻の届出をした夫婦であり、同四三年五月八日に長女が、同四六年四月四日に長男が出生した。

 2 上告人とaとの夫婦関係は、性格の相違や金銭に対する考え方の相違等が原因になって次第に悪くなっていったが、aが昭和五五年に身内の経営する婦人服製造会社に転職したところ、残業による深夜の帰宅が増え、上告人は不満を募らせるようになった。

 3 aは、上告人の右の不満をも考慮して、独立して事業を始めることを考えたが、上告人が独立することに反対したため、昭和五七年一一月に株式会社A(以下「A」という)に転職して取締役に就任した。

 4 aは、昭和五八年以降、自宅の土地建物をAの債務の担保に提供してその資金繰りに協力するなどし、同五九年四月には、Aの経営を引き継ぐこととなり、その代表取締役に就任した。しかし、上告人は、aが代表取締役になると個人として債務を負う危険があることを理由にこれに強く反対し、自宅の土地建物の登記済証を隠すなどしたため、aと喧嘩になった。上告人は、aが右登記済証を探し出して抵当権を設定したことを知ると、これを非難して、まず財産分与をせよと要求するようになった。こうしたことから、aは上告人を避けるようになったが、上告人がaの帰宅時に包丁をちらつかせることもあり、夫婦関係は非常に悪化した。

 5 aは、昭和六一年七月ころ、上告人と別居する目的で家庭裁判所に夫婦関係調整の調停を申し立てたが、上告人は、aには交際中の女性がいるものと考え、また離婚の意思もなかったため、調停期日に出頭せず、aは、右申立てを取り下げた。その後も、上告人がAに関係する女性に電話をしてaとの間柄を問いただしたりしたため、aは、上告人を疎ましく感じていた。

 6 aは、昭和六二年二月一一日に大腸癌の治療のため入院し、転院して同年三月四日に手術を受け、同月二八日に退院したが、この間の同月一二日にA名義で本件マンションを購入した。そして、入院中に上告人と別居する意思を固めていたaは、同年五月六日、自宅を出て本件マンションに転居し、上告人と別居するに至った。

 7 被上告人は、昭和六一年一二月ころからスナックでアルバイトをしていたが、同六二年四月ころに客として来店したaと知り合った。被上告人は、aから、妻とは離婚することになっていると聞き、また、aが上告人と別居して本件マンションで一人で生活するようになったため、aの言を信じて、次第に親しい交際をするようになり、同年夏ころまでに肉体関係を持つようになり、同年一〇月ころ本件マンションで同棲するに至った。そして、被上告人は平成元年二月三日にaとの間の子を出産し、aは同月八日にその子を認知した。

 二 甲の配偶者乙と第三者丙が肉体関係を持った場合において、甲と乙との婚姻関係がその当時既に破綻していたときは、特段の事情のない限り、丙は、甲に対して不法行為責任を負わないものと解するのが相当である。けだし、丙が乙と肉体関係を持つことが甲に対する不法行為となる(後記判例参照)のは、それが甲の婚姻共同生活の平和の維持という権利又は法的保護に値する利益を侵害する行為ということができるからであって、甲と乙との婚姻関係が既に破綻していた場合には、原則として、甲にこのような権利又は法的保護に値する利益があるとはいえないからである。

 三 そうすると、前記一の事実関係の下において、被上告人がaと肉体関係を持った当時、aと上告人との婚姻関係が既に破綻しており、被上告人が上告人の権利を違法に侵害したとはいえないとした原審の認定判断は、正当として是認することができ、原判決に所論の違法はない。所論引用の判例(最高裁昭和五一年(オ)第三二八号同五四年三月三〇日第二小法廷判決・民集三三巻二号三〇三頁)は、婚姻関係破綻前のものであって事案を異にし、本件に適切でない。論旨は採用することができない。

 よって、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

     最高裁判所第三小法廷

         裁判長裁判官  可部恒雄

            裁判官  園部逸夫

            裁判官  大野正男

            裁判官  千種秀夫

            裁判官  尾崎行信

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